今からするのは全て本当の話だ。
パチンコで膨れ上がった数千万の借金の取立てに追われ、首の回らぬ生活を送っていた頃。
その日もいつものように、仕事探しに行くつもりで家を出て、ただ無意味に街を徘徊していた。
昼下がり。初めて入った安食堂で鬱々とメニューを眺めていると、そこで働いていた美しい娘が目に留まった。目を奪われたと言う方が正しいか。
透き通った肌と声、上品な仕草。100人の男に聞いても、誰もそれを否定しないような美人だった。
頼んでから10分位待たされ、その娘が俺の席へ定食を運んできた。
「お待たせして申し訳ありません」彼女の透き通った声。俺は惜しいと思った。
もし純粋な学生時代だったら、完全に射止められて彼女へ人生の一部を捧げ、美しい思い出になっていたかもしれない。
その時の俺は恋が出来るような精神状態ではなかった。俺のような最低な人間が、女、増してこんなに美しい娘に相手にされる訳が無いと。
押し寄せるネガティブ思考。金、時間、友人、更には人間らしい心さえ失いかけている。もう耐え切れないと思った。
俺は死を決意した。この食堂で食うのが、人生で最後の飯。最後でも、こんな美女を見られた事が幸せだ。
これを食い終わったらロープを買って、死に場所を探そう、などとと考えていた。
その時。
ガシャーン!と甲高い音が俺のテーブルから発せられ、周りの客の視線が集まった。
足元に、トレーとその上の陶器皿、ガラスコップの破片が飛散した。
ぽかーんとしている俺の前で、彼女の表情は一瞬にして凍りついた。客の前で大失敗したんだから、テンパるのは当たり前だ。
飯を出すのも遅れていたし、それで慌てていたんだろう。
彼女は泣きそうな程に弱った細い声で、すぐに新しいものをお持ちしますと言った。
俺はとっさに叫んでしまった。
「あー、やっちゃった。ホントごめんね!俺の不注意だから、全部責任持って片付けるから」
雑巾を手に取り、素早く破片と飯をお盆に乗せ、床を拭き、彼女に手渡した。
店の入り口と歩道の境界で振り向くと、俺が店を出ようとしても未だ複雑な表情を浮かべ、立ちすくんでいる彼女が見えた。
こんな俺でも、彼女へフォローしてあげられた。清清しい気分だ。死ぬ前位は…と、俺を哀れんだ神は、この気分をプレゼントしてくれたのかもしれない。
その直後に店を飛び出してきて俺の腕を掴んだのは、食堂の経営者である彼女の父親だった。
彼は、調理場から一部始終を見ていたのだ。俺の声がいかにわざとらしかったかも、後で笑って聞かされた。
俺は閉店後に食堂へ連れて行かれ、彼女、そして彼女の親父と意気投合した。
俺の彼女との出会いの顛末だ。
文章が長くなるから、この後の事は省略して書こう。
俺が彼女と付き合い始めたのは、この一ヶ月後に食堂を訪れた時からだった。
すっかり彼女の親父に気に入られた俺は、二つ返事で彼女との同居も許された。
美しい彼女と肉体関係を持ち始めるのにも、そう長くは掛からなかった。
更に素晴らしかったのは、彼女の親父が俺の借金の返済を補助してくれた事だ。
そして中堅企業に就職した俺は、僅か数年で借金を完済した。
彼女は今、俺の妻となっている事は言うまでも無い。
ある朝の事だ。普段通り目を覚ました俺は、彼女が居ない事に気づく。
全て、夢だったのだ。なんて事だ。俺は落胆した。
もしかしたら…と思い一階に降りると、そこにはいつもと変わらぬ、美しい彼女が居た。
ホっと胸を撫で下ろした。キョトンとした眼で振り返り、「どうかしたの?」と美しい声で俺に尋ねる愛妻。
朝寝ぼけていた時に悲惨だった昔を思い出して、それがフラッシュバックしたのかもしれない。
子宝も授かり、彼女との幸せな生活は今も続いている。きっと、死ぬまで続くことだろう。
「長話になって申し訳ない。こんなストーリーのエロゲを探しているんです」とオレがソフマップのレジで聞くと、
無精髭を生やしたイカツイ店長は、にこやかにオレの肩に手を乗せ「帰れよ」と言った。
俺の後ろには長蛇の列。どうやらまた、無駄に時間を取らせてしまったようだ。
モウソウランキングゥ